学校には被ばくの不安材料が山積み 汚染冷凍みかんをめぐって

【横浜】小学校の被ばく給食問題―母たちの抵抗運動

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1633号で報告した東京の脱被ばくデモで、横浜の小学校の校庭に置かれた原発放射性廃棄物を、市に一部回収させることに成功した中井美和子さんが発言した。数少ない成功例だ。 3.11後に死活問題となった子どもたちの被ばく阻止は、全国の母親が莫大な努力で先頭に立ってきたが、それが表で報道されることは少ない。今後ますます必要になる活動だ。中井さんにその原点である小学校の汚染給食阻止の闘いを報告していただいた。(編集部)

ピースムーブ・ヨコスカ/神奈川・子どもを守りたい 中井美和子

 東電福島原発事故の翌月、私の子は小学校に入学した。数か月後、横須賀市では、被ばく防護対策を考える保護者グループが立ち上がる。メンバーのほとんどが母親。熱心に活動に加わる父親もいた。これは各地域で起こり、インターネットを通して自治体を超える交流が生まれた。

親に注意喚起 学校、教職委に抗議

 水道水、給食食材の安全性。授業での水泳、肌を露出する体育、落ち葉拾い、草むしり、植物を使用する授業。遠足、社会科見学、林間学校、修学旅行の行先や立ち寄るルートまで。学校には畑があり、食材を栽培、収穫して食べる授業まである。

 学校からの手紙、子どもの話に注意をしながら、自分ができることを事前に模索して学校へ手紙を書く、電話をする、話をしに行く。こうした人、保護者をインターネット上で揶揄する「放射脳」という用語がある。放射能に不安を持つ人、親という意味だ。

 神奈川県の震災瓦礫受入候補予定であった処分場地域の住民説明会で「放射能アレルギー」という言葉を使ったのは、黒岩知事だった。いずれも悪意ある吊し上げである。

 母たちは、日常会話やSNSで、放射能を「ホ」と表すようになった。放射能を気にする自分たちのことは「ホママ」と称した。

 2012年横須賀市では、1キログラム当たり6.51ベクレルの放射性セシウムに汚染された神奈川県産冷凍みかんを、給食で使用する事件が起きた。原発事故前の1日の放射性セシウムの摂取量は0・02ベクレル程度であり、それと比較すれば非常に多い摂取になる。教育委員会に「どの子どもにも、追加被ばくをさせたくない」と、内部被ばくの解説資料を作り、要請書を提出して使用を反対した母たちがいた。

 私も、教育委員会、すべての学校、教職員組合の分会宛、栄養職員、栄養教諭に要請、訪問をしたが、使用は決定した。後は、当日をどう迎えるかが問題だ。一人でも食べない子が増えるようにと祈る気持ちで、他の保護者と、自分の名前、子どもの学校名、連絡先を記載したチラシを撒いた。ママ友に「食べないで」とメールを出し続けた母たちもいた。

 しかし、教育委員会はさらに酷い方針を打ち出した。「冷凍みかんは安全だが、不安を持つ場合は食べても食べなくても良い。食べない場合は学校に連絡をするように。代替品持参は不許可」と保護者に手紙を出したのだ。学校教育が子どもたちの安全を放棄して、親に自己責任で選択させるとは。

 これに「選択の自由が持てた」と喜ぶ保護者もいたが、この手紙は、悲惨な結果をもたらした。

 当日、自分の子だけが食べないのは可哀想だという不安から、学校に手紙を書かず、本人に給食の時間に判断させる、または「食べない」と意思表示をさせた親がいた。担任によって、保護者から連絡がなくても食べないことを許可した先生、食べることを命じた先生に対応が分かれてしまった。これは予想外のことで、それに対応しきれなかった自分を悔やんだ。

汚染された冷凍ミカンをなぜ無理矢理食べさせるのか

 そして、2年生の子に対して、「おうちから連絡がきていない」ことを理由に、「放射能が入っているから食べたくない」と泣いて嫌がったのに、休み時間まで延長して、担任が皮まで剥き無理やり食べさせた例が起きたことを知った。情報源の女の子は、自分の他にも食べないと意思表示した子がクラスにいる事が嬉しくて、その友達をずっと見続けていたのだという。

 冷凍みかん提供日、私は自分の子の学校長に、先生全員宛に書いた手紙の配布を頼んだが、断られたので手渡しをした。内容は「冷凍みかんのお替りをさせないでほしい。理由は、お腹が痛くなるからなどの理由で良いのでお願いします」というもの。

 校長や教員に不都合が出ないようにと、事前に私が教育委員会と内容をすり合せた書面だった。配布した手紙を受け取ったが、しばらくすると走って来て「受け取れないの。ごめんね」と言う先生の姿、私を見ると逃げる若い先生もいた。他学校では「お替りはさせません」と即答し、先生方にメモを配布した校長。お替りをしない約束をしてくれた校長もいた。「自分の子が残した冷凍みかんを他の子のお替りに使わないでほしい」と学校に手紙を出した母もいた。

教職員と保護者が分断されない闘いを

 川崎市では、9.1ベクレルの冷凍みかんが使用された。市長は会見で「危険な中で生活していることを子どもたちが知ることが大事だ」「道路では車にぶつかる危険性もあり、すれ違ったあかの他人に刺されることもある。だから人とすれ違うな、と教育しますか」と発言。その後も、放射性セシウムが検出したみかん、りんご缶詰をフルーツポンチにして提供した。

 横浜市は、「川崎市、横須賀市の給食食材放射性検査において一定の数値が検出されている」として、冷凍みかん使用を取りやめた。鎌倉市は、8.1ベクレルの冷凍みかん使用を決定後、「基準値内であっても放射能の測定数値が出ている食材を繰り返し提供することに対する児童への影響は考慮すべき」として使用を取りやめた。逗子市は、7.51ベクレルの冷凍みかんを提供。給食使用された冷凍みかんを独自測定すると11.9ベクレル検出した。冷凍みかんは4回使用されたが、反対チラシを撒いたことで、食べない子どもたちが増え続けた。

 横須賀市では、担任が冷凍みかん提供の危険性を保護者に訴える学級通信を配布して、クラスで食べない子が多数出た例などがあったが、一人の教員が矢面に立つことが最良の方法ではない。教職員組合で子どもたちの命を守る決定をすることが大事だ。

 原発事故後、子どもに学校給食を食べさせることをやめて自宅で作った弁当を持参させる親もいる。本来は、どの子どもにも内部被ばくをさせてはならないのに、子どもたちの命が選別されている。

 それは今もこれからも続く。関東の汚染は明らかで、学校には大量の放射能汚染土がいまだに埋設されている。放置させてはならない問題だ。学校が安全であり、命を守る場であるために、教職員と保護者が分断されないたたかいを作りたい。

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